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親指シフトが速いことは大切なことか

親指シフトを推す人はさまざまな理由をあげる。その中で「入力が速い」はおそらくトップ3に入るだろう。確かに文章を入力する時間が短くなることは魅力的なことだ。しかし、このことをきちんと分析せずに、単なるハイプのように言うのだったら親指シフトを推すことは嘘つきということになろう。だから、この問題をできる限り正確に分析しておくことは大事なことである。
ここでも、「入力が速い」の意味をいくつかのレベルに分けることが有益であると考える。それらを以下、仮に技術的なレベル、個人的なレベル、社会的なレベルと名付けて見ることにする。

1.技術的なレベル
親指シフトはローマ字入力やJISかな入力に比べて同じひらがな文字列を入力するために必要な打鍵数は少なくて済む。これは文字数がそんなに多くなくても、たとえば100文字くらいでも明らかになる。親指シフトを1とすると、JISかなは1.2、ローマ字は1.8くらいになるようだ。これは大きな差のようだが、文字入力をするにはその他にかな漢字変換も必要になる。これらはどの入力方法でも差はないだろうから、差は縮まる。さらに、決まった文章を入力練習のようにするのではなく、文章を考えながら入力をするという場合だったら入力速度の差の持つ意味はさらに小さくなるだろう。
http://gicchon.la.coocan.jp/sub18.htm

2.個人的なレベル
それでは、親指シフトを使って入力が速いことは、ユーザー個人にとってはどのような意味があるだろう。今まで1日1万字しか書けなかったのが1万2千字書けるようになるのは良いかもしれない。私は文章を文字数で評価するという19世紀的な思考方法にはついていけないけれども。それに、文章の内容まで考えると、どうでも良いような文章がたくさん生み出されたら世の中からすれば迷惑なことじゃないだろうか。いずれにしても、個人にとっての親指シフトのベネフィットなんてそんなに大したものではない。親指シフトに乗り換えようという人がほんの一握りしかいないのは当然である。
https://www.facebook.com/groups/oyayubishift/permalink/2149434998417741

3.社会的なレベル
親指シフトをキーボード配列の規格という社会的システムで見たらどうだろうか。こうした規格は一般に一度確立したものを取り替えるのはコストがかかり難しい。親指シフトがローマ字入力に勝てないのはこのためである。つまり個人的なレベルでの議論をしていても、誰も振り向かないのである。しかし、社会全体が親指シフトに切り替わればそのベネフィットは大きなものになる。このことをきちんと訴えていくことが大事だと考える。
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親指シフトは難しいか

親指シフトは難しいか、という問いはよく目にすることがある。もちろん、肯定的な議論も否定的な議論もある。
ただ、こうした議論を見ると違和感を感じることがある。それは、どのようなレベルでこれを論ずるかということが明確になっていないまま、個人が自分の思い描く範囲での考えを述べるという状態になっているからだと思う。
もちろん、問いのとらえ方は個々人により違うのは当然だが、それでもそうした前提条件を論ずることなく議論をしてしまうことで本質的なことが見えなくなってしまっているのではないかと考える。
私の本件に対する考え方は、この問いを3つのレベルに分けるのが有益なのではないか、というものである。
3つのレベルとは、個人の技術としてのレベル、環境構築のレベル、社会的受け入れのレベルである。以下、簡単にそれぞれについて説明する。
1. 個人の技術としてのレベル
親指シフトはもちろん、個人がキーボードとコンピューターを使って文章を作成するための技術の一つである。人間が体を使ってする技術という意味では、たとえば自転車に乗るとかと同じである。こうした技術は、ものによる違いはあるものの、総じてすぐに身につくものではなく、何らかの練習が必要なのは明らかである。
親指シフトで言えば、文字に対応するキーの位置に指を動かして押す動作が無意識にできるようになることが必要となる。
他の技術と同様、親指シフトでも人により得意不得意はあるから、簡単に覚えられたという人もいるし、なかなか難しいという人もいる。
私の見るところ、昔(OASYSの専用機があったころ)に覚えた人は、簡単に(たとえば1週間程度で)できるようになった、というのが多いように思える。もちろん、今の時代まで親指シフトを使っている人たちは最初の良い思い出として美化しがち、ということはあるかもしれない。ところが、最近親指シフトを覚えようとする人のブログなどの書き込みをみると、難しくてなかなかできない、やっぱりあきらめたというのを見ることが多いような気がする。
個人の印象だけではなかなかきちんとした議論をすることができないのは困ったことだが、幸い、かつて行われた実験がある。これはいまはなき日本語入力コンソーシアムの資料としてあった(今はウェブサイトがなくなってしまったのですぐに見ることができないのは残念)、親指シフト、JISかな、ローマ字入力を初心者に練習させて、上達の度合いを測定したものである。この結果は、親指シフトがもっとも上達が速い、というものだった。つまり、親指シフトは設計の面で他の2つの方法よりも簡単だ、という結論になっている。
それでは、なぜ、親指シフトは難しい、という声をそんなに耳にするのだろうか。確かな理由は分からないが、たとえば、使っているキーボードの違い(昔は専用キーボードを使っていた人がほとんどだったと思うが、今はそうではないだろう)や、練習環境(かつてのOASYSにはよくできた練習ソフトがあった)なのかもしれない。それに加えて、親指シフトなんて簡単に覚えられるよ、といった言葉につられてやってみたが、そんなには簡単ではなかった、などと感じる人が多いのかもしれない。
私が思うのは、覚えやすい練習環境を作れば、親指シフトを覚えることはそんなに大変ではない(練習が必要でない訳ではない)と思うが、そのような練習環境の構築は難しくなってきていると思う。
2. 環境構築のレベル
今述べた練習環境もそうだが、そもそも親指シフトを使えるようにする環境を作ることにどのくらいの困難があるかということを考えてみたい。
よく、親指シフトを勧めている人で、このノートパソコンで、このフリーソフトを使って、このような設定をすると、親指シフトなんて簡単に使えるようになるよ、といったことを言う人がいる。確かにそうかもしれない。しかし、そのような設定はたとえばパソコンが変わっても通用するかというと必ずしもそうとは言えない場合もあるだろう(実際、ノートパソコンのキーボードは機種によりかなり違いがある)。そうした細かいところまで、簡単にできると言っている人がきちんと把握し、親指シフトを使いたいという人が困っているのに対応してくれるのだろうか。
私が現在、基本的に使っているセットアップは、専用キーボードとJapanist10というプログラムである。これらはすでに販売が終了し新たに購入することはできなくなっている(その意味ではこれらを使うのはとても難しいのだが)が、これらはWindowsの普通の作法にしたがって作られているから、インストールや設定も無理なくできる。サポートはまだ続いているから、問題があったときは富士通に言うこともできる(どの程度対応してくれるかは分からないが)。
3. 社会的受け入れのレベル
最後は社会的受け入れのレベルである。承知の通り、親指シフトを使っているひとは圧倒的少数である。世の中には、少数しか使われていないものを自分が使っているということがさもすごいことだと言いたい人がいる。自分は他の人が使っていないこんなものを使ってすごいんだ、とでも言いたげだ。これはおかしなことで、少なくとも私は親指シフトを使うことがそんなにすごいこととは思えない。
技術は広く社会で使われるようにならなければその有用性は示せない。親指シフトは残念ながらその面では失敗したと言わざるを得ない。もちろん、そんなことは関係なく、自分にとって使いやすく合っているものを使うのだ、というのは間違っていない。私も環境が許す限り親指シフトを使い続けるだろう。ただ、少数派であることは多くの不便や困難を覚悟しないといけないことを知っておく必要はある。そうした困難を伝えずに、能天気に他人に勧めるようなことは私にはできない。

親指シフトが使える環境とは何か(続き)

前のポスト に書いた通り、親指シフトが使える環境、というのを定義することは結構面倒くさい。
それならば、どのようなことがポイントになるのだろうか。それは、使う人と親指シフトとの関係による。
特定のハードウェア(特にキーボードが固定されているようなノートパソコンのたぐい)で親指シフトを使いたい、というのだったら現状では大きな困難を伴う。それだけではない。ハードウェアを変える度に、新たな環境構築に多大な労力を注ぐ必要がある。あらたなキーボードに手が慣れるのにも時間がかかる。だから、このような方向で親指シフトを使おうとしている人の多くは、「このパソコンが、親指シフトにはおすすめ」とか「親指シフトをやるんだったらこのパソコンでないとダメ」とか「親指シフトが使えるこのパソコン万歳!」といったことを言いがちになる。こうした言い方が、「親指シフトはどれでも使えますよ」ということとは矛盾することに気づいているのだろうか。
これと反対に、ThumbTouchなどの専用キーボードを使えば、事実上すべてのパソコン、スマホ、タブレットなどで親指シフトを使える。もちろん、この場合は、使うキーボードは固定されているから、先ほどのようなやり方で親指シフトをやっている人たちからは「専用キーボードがないと親指シフトができないというのは親指シフトの使えるところを狭めている」と批判されることになる。
世の中はすべてトレードオフがある。だから、この両者のどちらが絶対的に優れているということはできない。しかし、使う人と親指シフトとの関係という視点で見れば、実際に手に触れるところが一貫していることの重要性は強調しすぎることはない。そうした見方をすれば、どちらが親指シフトの本質的な価値をとらえているかは明らかである。

親指シフトが使える環境とは何か

親指シフトによる入力は広くサポートされていない。このため、親指シフトユーザーにとっては「どのような環境ならば親指シフトを使えるか」というのは大きな関心事である。このような環境でもこのようにすれば親指シフトが使えるようになる、といった情報交換もあちこちでされている。
しかし、「親指シフトが使える」という言葉はそれほど簡単に定義できない。なぜかといえば、「親指シフト」でイメージするものが人により違うからである。
たとえば、ThumbTouchを使って親指シフト入力をしたい、というのだったら、「かえうち」、「OyaConv」「USB2BT+」などを使えば、事実上ほとんどのパソコン(Windows, Mac, Linux, ChromeOSなど)、スマホ(Android, iOSなど)、タブレット(Android, iPadOSなど)で親指シフトは使える。USBまたはBlueToothと日本語ローマ字入力ができれば、ほぼ実用的に使うことができる。
しかし、ポータブル端末に付属しているキーボードなどで親指シフトを使いたいのだったら、基本ソフトごとのソフト的な解決策が必要になる。それが用意されていない場合は「親指シフトは使えない」となる。
言いたいことは何かというと、「親指シフトが使える」といった簡単に見える表現でも、きちんと定義をしておかないと、意味のある議論はできない、ということだ。これは親指シフトうんぬん以前の「議論の作法」ができているかの問題である。

親指シフトに関連した雑感

親指シフトは40年以上前に富士通のワープロ専用機OASYSに搭載されて誕生した。当初は「親指シフト」といえば、まさに1つしかなかったといえるだろう。その後、OASYSのラインアップも増え、さらにパソコンなどでも使えるようになり、サードパーティーの専用キーボード等も出てくる中で、親指シフトが使えるような場面は増えていった。これはもちろん喜ばしいことだった。
使える場面が広がる中で「親指シフトとは何か」ということを定義することはあまり意味のあることではないだろう。私の考えつくいくつかのトピックで親指シフトに関連する話題を取り上げてみたい。もちろんこれは私の考えで、親指シフトに関してはさまざまな考え方があると思うので、自由に考えて良いと思う。
1.NICOLA以外の配列
親指シフトで多くの人がイメージする文字配列は、日本語入力コンソーシアムが決めたNICOLA配列だと思う。これは、富士通が当初決めた配列に少しの変更(半濁音の入力方法や親指シフトキーの場所の柔軟化など)をしたものだが、文字の配置は基本的に変わっていない。
これに対して、もっと効率的な配列があるのではないか、ということで代替案を提示する人もいる。実は私はこうした案(100回以上テストを繰り返してその度に配列も変更していることで有名なもの)の考案者と私の掲示板で、突っ込んだ議論をしたこともある。確かに現在のNICOLA配列に改善の余地がないかというと、そんなことはないだろう。よく言われるのはNICOLAでは清音と濁音は同じキーに置くという制限があることだ。この制限があることで、より効率的な文字配列の可能性を狭めている、というのはあり得る議論だ。
この方との議論は大方すれ違いになった、というのが私の感覚なのだが、その理由は両者の求めているものの違いにあったと思う。先方が目指しているのは、与えられた条件で(ご自分が実際に使っているキーボードでの自分が入力する実験結果をもとにしていた)効率化を目指すという、言ってみれば、自分の車を改造して速く走らせるようなことだった。それに対して私の関心事は、効率的で安全な車や交通の規格を作る、ということにたとえられる。今でも記憶しているのだが、最初に富士通が配列を決めたときにさまざまな検討をしたが最終的にはえいやで決めたと神田さんが言っていることを批判していた。私の議論は、これは規格なのだから効率について拘るのはいいにしても(実際、親指シフトはローマ字入力やJISかな入力に比べたらずっと効率的であるのは確かである)、大事なことは「みんなに使ってもらう」ことで、そのためには一つのものに決めることが必要ではないか、というものだった。このすれ違いはずっと続いた。
もう一つ、私が違和感を持ったのが、配列を決めるのに自身で持っているパソコン(JISキーボード)での入力実験をもとにしていることで、それは他のパソコンだったらどうなるか、という議論に対しては、説得力のある答がないのではないかと思った。それよりは、配列の効率は少し劣るかもしれないが、それに適した専用キーボードを使う方が良いことではないかと思った。
2.親指以外での同時打鍵
親指シフトは「親指と他の指の同時打鍵(同手または異手)」を使う方法である。これに対して、親指ではなく他の指、たとえば中指や薬指と、他の指との同時打鍵を使う、という考え方がある。まあ、これは「親指」シフトではないだろうが、「複数の指の同時打鍵」という面から見れば、親指シフトと同根ともいうことはできるだろう。
どんな呼び方をするか、という話はどうでも良いと思うが、私は個人的にはこの方向の議論にはあまり興味をそそられない。その理由は2つあって、一つは親指シフトが開発されたときの研究の早い段階で、親指以外の複数の指の同時打鍵を使った入力方法は難しい、という結論が出ている(神田さんのウェブサイトやWikipediaに書かれている)ことである。だから、改めてそうした考えを復活させるとしたら、これを覆すような議論がないといけないのではないかと思う。もう一つの理由は、親指ではなく中指や薬指を使う理由として、親指シフト専用キーボードではなく普通に利用可能なキーボードで使えることをあげていることである。1.と同じ理由で、私はなんで現在あるキーボードという制約にそんなに縛られなければならないか、というのが理解できない。
もちろん、以上は私の個人的な考えで、もしかしたらこの方法にはもっと良い理屈があるのかもしれないし、使ってみて良かったらそれでオーケーだとは思う。
3.自作キーボード
最近の技術進歩、特に3Dプリンターなどが個人でも使えるようになってきたことから、キーボードを自作する、というのがブームになってきている。もちろん、親指シフトのコミュニティーも、専用キーボードが工業製品として終息するということもあり、興味を持っている人が結構いる気がする。私もすぐに何か作ろうというほどではないにしても、興味はあるし、なんといっても、自分用にカスタマイズされたインターフェースという考え方は親指シフトとも親和性があるものだと思う。キーキャップなどの部品だけにとどまらず、キーボード全体を自分用に作れればすばらしいとおもう。それどころか、携帯できる親指シフトパソコンだって
https://www.facebook.com/groups/oyayubishift/permalink/2157758007585440
のようないい加減なものではなく、ちゃんとしたものができるのではないかと夢は広がる。
しかし、どこでも自分に合ったキーボードを使いたい、という理想は技術的な問題だけでは解決できない。それは次のような状況を考えてみれば分かる。もし、あなたが会社などの組織のトップや情報部門の担当者だとしたら、社員が自分の使いたいキーボードや入力のためのプログラムを持ってきて使いたいと言ったとき、それを許可するだろうか。それも各自が自分で作ったものだったらどうだろうか。親指シフトのユーザーがこれまで苦労しているのはそういうことなのだ。自作キーボードの理想はすばらしいと思うが、その理想を実現するために技術的な課題だけでなく社会的な課題まで解決するように頑張ってほしいと願っている。
4.日本語以外
親指シフトは日本語の入力を改善するために使われている。NICOLAも「日本語入力コンソーシアム」という団体が策定した。日本語を入力するには最適、というキャッチフレーズを使いたくなるのも当然なことだろう。
しかし、キーボードでの入力をより合理的、簡単なものにしようというのは、日本語に限った話ではないのではないか。特に文字数が多かったり、いろいろな補助記号を使ったりする言語では、キーボード入力の方法にさまざまな工夫がいる。英語のように、文字とキーがほぼ一対一で対応するという言語はきわめてまれだ。
親指シフトは、親指と他の指の同時打鍵という、人間の体の構造から見て自然な方法で、一つのキーで打ち分けられるケースの数を増やした。これによりキーボード入力の可能性が大きく広がった。
それだとすれば、日本語に限らず、他の言語でも応用がきくのではないか、という考え方がある。
拙サイト http://gicchon.la.coocan.jp/sub14.htm にまとめてあるのはその例である。
ある程度の具体的な案を考えているのは、私の知る限りでは日本で3人(ということはおそらく世界で3人)だけだし、当然、実装などはできていない。私がその3人に含まれているから言うわけではないが、「3人が独立に同じことを考えていたら、それはおそらく正しい」という信念(笑)を持っている私としては、ぜひ、この方面で続く人が出ることを願っている。

以上、親指シフトに関連する話題としていくつか取り上げてみた。もちろん、この程度で親指シフトに関連したものが尽きるわけではないし、もっと面白いことを考えている人がいると思う。裾野の広さが、親指シフトの基本的な考え方の健全さを示していると私は思っている。

富士通が親指シフト関係の諸製品を終了させる

5月19日に発表された、富士通が親指シフト関係の諸製品を終息させることにしたというニュースは親指シフトに何らかの関わりを持つ人たちに、大きな衝撃を与えた。発表当初のやや混乱した状況から少し落ち着いた今、このニュースの意味を考えてみたい。

1. このニュースは社会的なものである
まず、このニュースは社会的なものであることを理解しないといけない。つまり、親指シフトに対する社会的認知の重要な指標である「工業製品として供給されるかどうか」が大きく変化することである。この面で見れば、簡単に言えば親指シフトは社会的には終了した、あるいは、終了への日程が確定したということだ。

2. 親指シフトを使っている個人にとっての影響はおそらくそれほど大きくない
社会的に終了した親指シフトであるが、親指シフトを使っている個人にとっての影響は実はそれほど大きくない。今回の決定で一番大きな影響を受けると考えられる、親指シフト専用キーボード、Japanist、OASYSを使っているユーザーでも、今後結構長い期間、今のままの環境で使い続けることができる。これは次の記事がとても分かりやすく説明してくれている。
https://kiyoto-y.hatenablog.com/entry/2020/05/22/021715?fbclid=IwAR2HK8t4C_cARGue51aXfkVFXK3WBTp7v7xVIZ7ZkSIP3tttR3c8j5VL930
このようなユーザーからは発表当初は悲鳴にも似たレスポンスがあったが、事態が落ち着くにつれて、そうした声もなくなってきている。昔からの親指シフトユーザーはこれまでもこうした危機を乗り越えてきている(そうせざるを得なかった)から、度胸がすわっている。
親指シフト専用キーボード、Japanist、OASYSを使っていないユーザーにとっては、まったく変化がないので、別にどうでも良い話である。ところが、こうしたユーザーは、今回のニュースのあと「親指シフトは終わっていない」とわざわざ発信している例がある。関係ないから別にどうでも良いはずなのに、こうしたことをあえて言っているのには、訳がある。これを次に考えてみたい。

3. 「親指シフト=意識高い系」マーケティングは破綻した
親指シフトをプロモートしている人たちの中に、「親指シフトを使うのは生産性向上に余念がなく意識が高いからだ」といった意識が透けて見えることがある。こうした人たちにとっては、今回のニュースで「親指シフトってもうオワコンじゃない」と思われることは自分のビジネスモデルの破綻になるし、「終わったものにしがみついているなんてwww」と笑われることは我慢がならない。だから痺れを切らして「終わってない」と言い張らざるを得ない。まあ、大半の人にとってはどうでもいい話だけど。

親指シフトに専用キーボードは不要か

親指シフトを使うのに専用キーボードを使うかどうかは大きな選択です。現状では専用キーボードは高価だし、種類も少なくて選択肢が少ないです。
こうしたことから、専用でないキーボードで親指シフトを使うことを勧める向きもあります。
しかし、私は「親指シフトに専用キーボードは不要」という言い方は問題があると考えます。
この言い方は間違っているかと言えば、(親指シフトをどのように定義するかにもよりますが)そうとは言えないでしょう。私自身も、「親指シフトには専用キーボードが必要」と言ったことはありません。問題はそこではないのです。
まず、この言い方は誰に向けて使われるのでしょうか。私の見るところ、親指シフトを使ったことがない人に勧めるために使われています。
さらに、このような言い方をする人は専用キーボードを使ったことがあるのでしょうか。
私の考えでは、親指シフトは基本的には専用キーボードを使う人たちが支えてきました。実はこうした人たちは、SNSなどであえて、他人に対して親指シフトを勧めたりしません。親指シフトの現状を見れば、安易に勧めても失望を産むだけだと思っているからです。中途半端な使われ方をしても迷惑なだけだ、という気持ちです。
何かを他人に勧める場合、少なくとも、いろいろな選択肢に対しての知識が必要です。
専用キーボードとそうでないキーボードでの大きな違いは使用時の感覚的なものです。そうしたニュアンスを無視した議論は乱暴で、他人に対しての説得力はありません。それだから、専用キーボードを触ったこともない人が「専用キーボードは不要」というのは、不適切なのです。

Japanistを使っていると単語登録をあまりしないこと

これはfacebookの親指シフトグループに書いたことですが、Japanistと親指シフト専用キーボードを使って入力をする場合、入力予測がとても強力で使いやすいことに気がつきました。
https://www.facebook.com/groups/oyayubishift/permalink/2007972305897345/
詳しいことはそちらを見てほしいのですが、これに関連して、もう一つ気がついたことがあります。
それは、この組み合わせで使っていると、単語登録をほとんどしないことです。なぜかと考えてみましたが、まず、Japanistは変換履歴を尊重する傾向が強いので、変換結果が同じなら、改めて単語登録をする必要がないことです。
また、入力予測があるので、少し長いフレーズや文章でも、わざわざ登録をしなくても予測候補として現れてきます。
これは、操作をとても自然なものとしています。
往々にして、符丁のような短縮フレーズを使って単語登録をしてしまうと、忘れてしまったり、あるいは、とんでもないところで変な変換候補が現れてしまうことがあり、これは大変なストレスとなります。
親指シフトを使うと、入力作業はなんでも簡単にしたくなる気分になります。ずっと昔に、英文を入力するのに切り替えが面倒なのでたとえばAを打つのに、「えー」と打って変換させた人がいる、と聞いて、確かに指を使いやすいところから動かしたくない気持ちは分からないでもないが、これは反対に面倒なのではないか、と思ったことがあります。
英文を打つのだったら、「英数」キーを押して、完全に英語モードにしてしまったほうが自然です。特に、ある程度の分量の英文を入力するのだったら、なおさらです。
親指シフト専用キーボードとJapanistだったら、英文モードは普通の英語入力に完全に対応しています。さまざまな記号も普通に打てます。これは、親指シフト専用キーボードが「無理をしていない」ことによるものだと思っています。

「かえうち」を使ってみて思ったこと

親指シフトをさまざまな機器、特に最近のスマートフォンやタブレットなどで使えるようにするためのアダプターである「かえうち」を使ってみました。
実は少し前に買ってあった(同じようなコンセプトのOyaConvも買ってあります(笑))のですが、いろいろ手が回らなくて、今まで設定をしてきませんでした。かえうちは、設定をして使うことが前提のものなので、そのままでは動きません。
最小限の設定(NICOLAのデフォルト)をして、iPad miniにつないで試したところ、とりあえず親指シフトでの入力ができることを確認しました。
https://twitter.com/nobsug/status/1005362132915896320
ともかく動くことを確認した、という程度なので、ここでは同製品のレビューということではなく、この製品を通して、親指シフトについて、考えてみたことを書くことにします。
親指シフトがデフォルトでサポートされていない、という社会的状況の中では、親指シフトを使えるようにするためには、キーボードとコンピューター本体だけではなく、その間に何らかのソフトやハードが必要になってきます。
それはたとえばJapanistやNicolaK Proその他の、コンピューターに組み込むソフトだったり、かえうちやOyaConvのようなキーボードとコンピューター本体の間に入れるアダプターだったり、あるいはキーボードのファームウェア等を改造したりするものとなっています。
このように、さまざまな異なった形の方法があるのですが、私はこれらは「本質的には」同じ考え方で整理できると思っています。それは、コンピューティングの本質的な作業というのが「データを動かす」ということだからです。たとえばキーボードとコンピューターの間の信号のやり取り、コンピューター内部での信号のやり取りなどは、すべて「データを動かす」作業です。その効率性や制約の有無などにより、データを使った作業をどこでやるかは変化します。
親指シフトの例でいえば、コンピューター内のソフトでやるか、アダプターでやるか、キーボード内のファームウェアでやるかは、信号のやり取りの効率性や制約の有無で異なるものの、本質的な違いはありません。
もちろん、実際の世界ではさまざまな制約があるので、それを合わせた最適な構造を考えることは技術的にはきわめて大事ですし、実用的な使いやすさを考えるにあたっては、決定的です。ただ、それは実は本質的なものではないのです。
さて、そのような背景の中で、親指シフトユーザーにとってもっとも大事で本質的な価値とはなんでしょうか。それは、自分の指で触れるものの感触なのです。こうしたユーザーインターフェースの重要性については、和田英一先生がきわめて明確に述べておられます。ユーザーにとって統一的で使いやすいインターフェースは親指シフトユーザーに限らず、本質的に重要な価値なのです。
こうした点から考えると、現在使われているコンピューターにたまたま付いているインターフェースに甘んじたり、似ても似つかないような異なるインターフェースを同じ基準で評価したりすることは間違っていると言わざるを得ないのです。

親指シフトを他人に勧めるということ

親指シフトは使い慣れると、とても気持ちよく使えます。この経験を他人にも分かってほしい、と思うのは自然な感情です。「こんなに良いものを知らない人がいるのは残念だ」「他の人も使ってほしい」こんな気持ちは親指シフトを使っている人は、一度ならずとも持ったことがあるのではないでしょうか。

こういう気持ちを否定するものではありません。私も親指シフトユーザーとして、他人にも使ってほしいと思っています。「親指シフトのセールスマン」とも自称しています。

しかし、他人に何かを勧めるという行為は社会的なものです。特に具体的な形でやろうとすれば、それには社会的な責任が伴うと考えられます。親指シフトを勧める方々を見て考えたことを以下に述べます。

まず、どんなものでも他人に勧めることには責任があります。単に自分が使って良かったという物を勧めるのだったら、それは「押しつけ」と変わりません。それではどうすれば良いかと言うと、相手が納得するような考え方を提示して、疑問に対してきちんと答えられる、ということが最低限必要できることが必要です。

何かを勧めるという場合、「何か」だけでなく、「誰に対して」ということも大事なことを忘れてはいけません。

かつて信用金庫業界にその人ありと言われた、小原鉄五郎という人の言葉に「貸すも親切、貸さぬも親切」というのがあります。金融機関ですから、他人にお金を貸すことは最も大事な商活動です。だからといって、相手のためにならないお金を貸すことは商売の原則から外れる、という炯眼です。

これに関連して、私が思っていることに「自分が影響力を持っている人たちに対してむやみに勧めてはいけない」ということがあります。たとえば、こんなことです。私は、公務員をして働いた後に大学教員になりました。先生になって驚いたことにひとつに、「学生は教員の言うことを実によく聞く」というのがあります。これは、もちろん成績評価のような権力を持っていることとも無関係ではないでしょう。だから、学生に対して、自分の良いと思っているものを勧めることは、よほど気をつけないと、せいぜい良くて個人の趣味の押しつけ、悪くすればハラスメントとなるおそれさえあります。

お金をとって親指シフトを勧めるというのなら、まだ分かります。相手はお金を出すということで、それなりの注意を払った選択をします。だから、勧める方もそれなりの責任を持っていると考えられます。これに対して、自分の影響力の及ぶ範囲で、自分の好みのものを勧めようというのは無責任でしょう。

何かを他人に勧めるというのなら、それに関連した知識・情報はできる限り知っている必要があります。それを使うことの効果はどれだけなのか、他に選択肢はないか、といった問に対して間違いなく、適切に答えられなければなりません。これには自分の経験だけで判断しては足りないことも多くあります。

たとえば、親指シフトでのキーボードの選択の問題があります。親指シフトは専用キーボードを使うのと、専用でないキーボードを親指シフトに無理やり合わせて使うやり方があります。私は前者ですが、後者のやり方をしている人も多くいます。私は親指シフト専用でないキーボードで親指シフトを使う人に対して、反対している訳ではありません。というか、他人がやることに対して、私が何かをいったからといって行動を変えられるものでもありません。ただし、人に勧めるということになれば、話は別です。

私の見るところ、親指シフト専用でないキーボードで親指シフトを使うことを他人に対して勧めている人の中には、専用キーボードを触れたこともない、と思われる人もいます。これは二つの点で問題だと考えます。

一つは、親指シフトは長い間、専用キーボードを使う人で支えられてきました。もちろん、現在でも専用キーボードを使用している人はたくさんいます。だから、専用キーボードは親指シフトの重要な構成要素なのです。人に勧めるのだったら、その部分に対する知識が全くないことは大きな問題です。

もう一つの問題は、キーボードというのは人間が手指で触れて操作して使うものだということです。このようなものは、人間工学的な配慮をきちんとしないと、健康被害などを起こす可能性があるものです。だから、用途外の使い方をするような使い方については、慎重にならないといけません。法律的に見ても、目的外の使用に起因する被害に対しては、救済の対象としないことが普通でしょう。こういう問題に無神経になってはいけないと私は思います。

これに関連して、キーボードの配列を変更したものを推す意見もあります。私はずっと昔に、そうした配列を提唱する人と議論したことがありますが、その配列は専用ではないキーボードを前提にしたものでした。つまり、親指シフトは使いたいが、専用でないキーボードではあちこち無理があるのを、なんとか配列の変更で乗り越えようというものです。私はこうした工夫を一概に否定するものではありませんが、それを簡単に他人に対して勧めようというのには、大きな違和感があります。端的に言えば、考え方の順序が逆じゃないかということです。

この問題は、根底には「キーボードが先かパソコンが先か」という問いがあります。専用キーボードに対して否定的な人は、往々にして「私の好きなこのパソコンで親指シフトを使いたいからこういうやり方をするとできるよ」という考え方をします。これはこれでひとつの考え方かもしれませんが、人間と機械のインターフェースを重視する考え方からは遠ざかっています。

高級キーボードで名前の高いHappy Hacking Keyboardの監修者である、和田英一博士は、有名なカウボーイと鞍のたとえで、ヒューマンインターフェースがユーザーから見て統一されていることの重要性を述べています。

親指シフトのユーザーからすれば、どんなパソコンを使っても同じユーザーインターフェースを提供するもっとも簡単な方法は専用キーボードです。実際、私はいろいろなOSのパソコンを使いますが、親指シフトで使うなら専用キーボードをつなぎます。

最後に、親指シフトを習得するための努力や時間について考えてみます。親指シフトも技能のひとつですから、使えるようになるには練習が必要です。このための努力や時間はもちろん、ひとによって異なるし、練習環境等にも左右されます。

実は親指シフトは、ローマ字入力やJISかな入力に比べて上達が速い、すなわち、覚えやすいということが分かっています。しかし、親指シフトを学ぼうとする人の声をSNSで見ると、結構難しい、なかなか覚えられない、といったものをよく見ます。これは、いろいろな要因によるものと考えられますが、私の見るところ、親指シフトを勧める人が「親指シフトなんて簡単に覚えられるよ」といったことを安直に言っているのを真に受けている可能性がある気がします。

「簡単に覚えられるよ」といって人に勧めたのに、その相手がなかなか上達しなくて苦労していても、あまり的確なアドバイスをできていないのではないか、という気がしています。

たとえば、親指シフトに限りませんが、タイピングを効率的かつ楽にするにはタッチタイピングの技術は必須です。タッチタイピングは、キーボードを見ないで打鍵することですが、これができない人に対してどんなに「キーボードを見るな」と言ったり、挙げ句の果ては目とキーボードの間に障害を作って見えないようにする、といったことをやっても効果は薄いでしょう。

そうではなくて、タッチタイピングを自然にやらざるを得ないような環境を作ることの方が効果的です。具体的には、キーボードとディスプレーを物理的に離せば、ディスプレーを見ることでキーボードは見えなくなります。この場合、肘の角度が90度になるようにすることが大事です。タッチタイピングの練習をするのにノートパソコンを使わせるなどということは、あってはならないことだと私は思っています。

タイピングの姿勢の大事なことは、労働安全衛生の面からも強調されます。使用者の健康を守るということだったら、強制してでもやらせるべきという理屈が成り立ちます。親指シフトの文脈で言えば、親指シフトを使うことが個人の生産性を上げる、というためだけだったら、勝手に好きな人がやればいい、ということになります。そうではなくて、親指シフトを使うことが(それも正しく)、使用者の健康にも大切だというのだったら社会的正当性をアピールすることができます。こうした社会的背景をよく理解した上で、親指シフトは他人に勧めるべきだと私は考えます。

親指シフト表記付きUSBライトタッチキーボード

eee-life社製の「親指シフト表記付きUSBライトタッチキーボード」が発売されています。私も販売開始直後に購入したのですが、使用する機会もあまりありませんでした。でも、せっかく新しい親指シフトキーボードが出たというのに使わないでいるというのももったいないことだし、使ったのならその経験を共有するのも良いことかと思いました。
この際、少しですが使ってみたので、以下思ったことを書き留めておきます。なお、これはレビューというよりは個人的な感想です。特に感覚に関わる点は個人的な差が大きいものなので、私の書いたことと異なる感じ方をされる方も多いかもしれませんことお断りしておきます。

社会的に重要な新しい専用親指シフトキーボード
このキーボードの最も大事な点は、親指シフトの専用キーボードの新しいモデルとして出てきたことである。親指シフトをよく知っている人なら、このキーボードは実は普通のJISキーボードで、キートップの文字を親指シフトに合わせたものにしただけだ、というのはすぐに分かる。それでも、親指シフト専用キーボードと銘打って製品化したということに大きな意義がある。
それなら、別に普通のキーボードのままでいいじゃないか、という声が聞こえそうだ。どうせタイピングをするときはキートップなど見ないからキートップの文字などどうでもいいなどというアホな議論は放っておいていい。小手先の間に合わせではなく、親指シフト専用キーボードとして世の中に出すというリスクをとった行動をまずはほめたい。なお、当初出荷されたモデルに些細な不具合(キーが少し沈んでいる)があったことに迅速に対応して、代替品を届けた(私もその対象となった)というのは責任ある態度だと思う。
このキーボードは現在amazonでは、2480円+配送料500円となっている。他の親指シフト専用キーボードからすれば大変安い。このため、このキーボードで親指シフトを試してみたいと思う人もいるかもしれない。


使ってみて
このキーボードは前述の通り、中身は基本的には普通のJISキーボードだから、親指シフトで使うには何らかのプログラム(親指シフトエミュレーター)が必要となる。私はJapanist2003の「快速親指シフト」を使った。各種OSでのエミュレータープログラムでも問題なく動くと思う。
キー配列はいわゆるNICOLA-J型である。一番大きな違いは後退(backspace)がデフォルトではNICOLA-F型のようなホームポジション右手小指の右になく、普通のJISキーボードのように最上段の一番右にあることだ。ただし、これは多くのエミュレーターの設定でNICOLA-F型の位置に動かすことができる。私は普段使っているキーボードがNICOLA-F型なので、少し使いにくい気がした。
キーのタッチに関しては、軽いものを選んだとされている。親指シフトユーザーは軽いタッチのキーを好む場合が多いのでこれは合理的だろう。ただ、実際に使ってみてのキータッチは必ずしも気持ちいいというところまではいかない。押し下げるのに少し抵抗があるキーもある感じだ。また、親指シフトキーの大きさや形状、場所も理想的とはいえない。
しかし、親指シフトユーザーのことを理解してその嗜好に合わせて選んできたという心意気は感じられる。ついでに言えば、一部のユーザーがほめているHHKBやRealforceといったキーボードだって、私が触った限りでは親指シフトに特に適しているとは感じられない。まあ、こうしたキーボードは別に親指シフトのことを考えて開発しているわけではないから当然で、これを小手先の間に合わせで親指シフトに合わせようとしてもおのずから限界がある。

総合的にみて
繰り返しになるが、このキーボードのすごいところは、とにかく親指シフトのことを考えた専用製品として出されたことだ。これだけの気合はなかなかない。一方で、私個人が使ってみての感想は、やはりいま一つの感じだ。キーのタッチなどの面で、長時間使うのは少しつらい。現在常用しているFMV-KB232やThumbTouchが使える限りはこのキーボードの出番はないと思う。
これまで使ってきた親指シフトキーボードとの比較でいえば、100点満点中50点というのが率直な感想である。

親指シフトに関する言説を見分ける

親指シフトに関してはさまざまな人がいろいろなことを語っています。親指シフトユーザーの多様性を考えれば、その内容も多様であるのは当然です。だから、その内容についてもいろいろな切り口や見方があってしかるべきです。
ただ、親指シフトを人に勧めようという目的で書かれた場合には、それなりの責任が伴うことを考える必要があります。私が見るところ、親指シフトを愛することで目が眩んでか、少し外れたことをいっている場合もあります。
これまでの私の経験から、こうした発言にはいくつかのポイントがあり、それを判断材料にすると良いというのが分かってきました。以下、そうした点について解説します。

1. 親指シフトの効果について
親指シフトを人に勧めるのは、何らかの良いことがあるからでしょう。確かに、親指シフトは優れています。ただし、その効果は万能ではありません。「親指シフトを使えば文章作成が速くなる」程度ならまだしも、「親指シフトを使えば○○○が○倍になる!」とか、「親指シフトは×××対策に有効!」とか言い出すのは親指シフトを誤解させるものです。そのうち、「親指シフトはぼけ防止に役立つ」とか言い出さないかと心配です。
親指シフトは優れています。しかし、その効果は限られています。それを無理に広げようとするのは、ひいきの引き倒しにすぎません。

2. OS選択とのアナロジー
日本語入力として親指シフトを選ぶかどうかを、OS選択などと同じように論じることは間違っています。それは技術的、社会的背景が違っているからです。
さらに言えば、現在はOSの選択はそれほど大きな問題ではありません。それを大事なことのように言うのは、自分の好みを人に押しつけたいだけです。
親指シフトを選択することは、OSの選択とは次元の違う問題です。なぜなら、原理的には親指シフトはOSがなんであろうと効果を生むものだからです。
OSの選択は「浮世の義理としては大切かもしれないが本質的にはどーでもえー」ことです。それに気づかずに「windows最高!」とか「やっぱりlinuxだよね」とか「これからはchrome OSの時代よ」とか言う議論を、親指シフトを選択するかどうかよりも優先させる人は事の軽重が分かってない人です。

3. 専用キーボードについて
私には理解不能ですが、世の中には親指シフト専用キーボードを毛嫌いしている人がいるようです。人それぞれですから構いませんが、少なくとも人に勧めるに当たって、専用キーボードを触ったこともないのに、「専用キーボードは不要です」というのは、いかがなものかと思います。
親指シフトの30年以上の歴史で、親指シフト専用キーボードが途切れたことはありません。今も多くの人が専用キーボードで親指シフトを使っています。いわば、専用キーボードは親指シフトにおける基本であるといえます。だから、その存在を無視することは、「先行研究のレビューができていない」(私も研究者の端くれなのでこのような言い方をお許しください)のと同じなのです。
反専用キーボードの議論の根拠は私の見るところ、2点です。一つは汎用性、もう一つはコストです。
前者は「専用キーボードがないと親指シフトができないというのは親指シフトが使える状況を狭めている」というものです。これはもっともらしいですが、実は間違っています。なぜなら、巷間目にする「普通のキーボードを使って親指シフトにする」方法は、実は個別のハードに合わせたソリューションであり、別のハードに適用しようとすると、大きな変更をしなければならないからです。これに対して、専用キーボードは「人間にとっていつも同じインターフェース」を提供するもので、現在、たとえばOSの選択には関係なく使えます。つまり、専用キーボードを使えば親指シフトという常に同じインターフェースが使えるところは広いのです。
コストについては、そもそも「専用キーボードは高いから(それは事実)、やめた方がいい」という、人の財布を覗き込むような下品な言説に私はついていけないのですが、それはともかく、では専用キーボードを使わないことで節約された金はどこに使われるのでしょう。私が言いたいのは、親指シフトを使うためにコストをかけることをどのように考えるかです。
最後に、キーボードのような人間が直接触れて操作するものについては物理的特性が大事であることを強調しておきます。そのようなものについては、流用で想定していない使い方をした場合の問題点をきちんとクリアしないと、少なくとも人に勧めるようなことをしてはいけないと私は思います。

4. 「後退」キーの位置
これは問答無用(笑)。
以下のリンクをご参照ください。
https://www.facebook.com/groups/oyayubishift/permalink/791849414176313/
http://thumbshift.blog108.fc2.com/blog-entry-5.html

親指シフト動画追加

親指シフトでのタイピングがどのようなものなのかを見てもらうのに一番良いのはおそらく実物を使っているところを見てもらうことでしょう。そうは言っても親指シフトのユーザーを見つけることは大変困難なので次善の策としてタイピングの様子をビデオで公開しました。今回、今までのものに加えて新たなものを加えました。

親指シフト練習入門編
親指シフト練習初級編1
親指シフト練習初級編2
親指シフト練習中級編
親指シフト練習上級編1
親指シフト練習上級編2

私のタイピングは特に速いということでもありません。ですから、このビデオを見て「親指シフトってたいしたことないじゃない」と言わないでください。親指シフトを使って一番速い人はおそらく私の2倍以上だと思います。

今回のビデオの特徴は「親指シフト練習」というソフトを使っていることです。実を言うと、親指シフトのビデオを最初に公開したときも本当はこれを使いたかったのです。実際、これを使った様子を公開している方もいらっしゃいました。なぜそうしなかったかというと、このソフトが最近の環境(ウィンドウズ7)では使えなかったからです。

ところがフェースブックでの親指シフトグループのメンバーの方でこのソフトを使えるようにしてくれた方がいたのです。この経緯は以下のスレッドに書かれています。
http://www.facebook.com/groups/oyayubishift/494250897269501/

この練習ソフトはとてもよくできています。ホームポジションから始めて段階を経て自然に親指シフトを習得できるようになっています。親指シフトのことをよく理解しているだけでなく、学習者の心理も考慮したものです。

今回追加した動画は、この練習ソフトの良さを知ってもらいたいという狙いもあります。このソフトを使えるようにしてくれた方への感謝を表します。

フェイスブックの親指シフトグループなど

もうご存じの方もいるかもしれませんが、フェイスブックに親指シフトのグループができました。
http://www.facebook.com/groups/oyayubishift/
オープンなグループなので誰でもご覧になれます。メンバーになりたい場合はリクエストを送ればかなり早く承認されます。新しい交流の場ができたことを歓迎します。

このグループでのディスカッションをベースに親指シフトユーザーのためのJapanist2003設定というwikiを作成しました。
http://www32.atwiki.jp/japanist2003/
フェースブックでのかなり突っ込んだ議論を親指シフトユーザーになるべく分かりやすく提供することを考えています。こちらもオープンなものですので、どなたでも閲覧、編集ができます。

親指シフトは古いものですが、こうした新しいSNSを使ってまだまだ広げる余地があるのは楽しいものです。

親指シフトの歴史

よく知られている通り、親指シフトという技術は30年以上前に開発されました。そして、その基本的な構造を変えずに現在も使われています。

長い年月ですから親指シフトにはさまざまなことが起こってきたし、いろいろな試みがされてきました。技術的な面だけでなく、普及の試み、ユーザーの経験まで含めて、少し大げさにいえば歴史の重みがあるのです。

だから、親指シフトに関する何らかの試みはこうした歴史の経験を踏まえたものである必要があります。特に学ぶべきは「失敗の歴史」です。親指シフトがもっとも失敗しているのは「普及」だと私は考えます。失敗を繰り返さないようにするにはどうしたら良いかは歴史に聞くのが早道です。

もちろん、過去に失敗したことでも環境が変化したら改めてトライすることで成功するかもしれません。やってみないと分からないというのも歴史の本質です。ただ、これまでの経験に学ぶことなく、あまりにナイーブに親指シフトが良いということだけを言うだけでは、普及はおぼつかないのです。

普及というのは社会的な認知です。それを得るための戦略と戦術が親指シフトには必要なのです。

親指シフトはうるさいか

親指シフトにしろ、その他の方法にしろ、キーボードで文字を入力する時は人により癖があるようです。とりわけ、キーをたたく時にどのくらい音がするか、あるいは、どのくらい音がすると感じているかに違いが出るようです。

親指シフトユーザーとして知られている勝間勝代さんは、http://kazuyomugi.cocolog-nifty.com/private/2007/05/post_8015.htmlで、「ちなみに、専用キーボードの欠点としては、『打鍵がかなりうるさい』というのもあります」と述べています。

これに対してやはり親指シフトユーザーの姫野カオルコさんは、http://only5.himenoshiki.com/?eid=1157485で、「『やかましい』ということは断じてありません。むしろ他の方法より静かです。私なんか座敷わらしの足音みたいに静かにやってます。」と言っています。

親指シフトユーザーの感じ方としてどちらか正しいのか、あるいは多いのかは分かりませんが、https://twitter.com/K_akiya/statuses/169745977937379329で「速くて優雅な気配すらする」とほめられた(笑)私としては姫野さんの方に味方したくなります。(youtubeは無音ですが本当は音がしてますよ(笑)。音をとるのが面倒だったのでやらなかっただけです。でも、そんなにうるさいことはないですよ。)

皆さんはどう感じますか。

人間工学的な親指シフトキーボード

所有しているパソコンの一つにMacBook Proがあります。

この取扱説明書(「Everything Mac, Macのすべて」という名前がついています)を見ていたら、興味深い図を発見しました。
MBP取り扱い説明書


説明には「入力するときや、トラックパッドの使うときは、力を入れすぎないようにしましょう。手や指をリラックスさせてください。親指を手のひらの下に入れないように注意してください。」(強調は筆者)と書かれています。

これは親指シフトについて書かれたものではありません(MacBook Proに本当の親指シフトキーボードモデルが出たら!)。しかし、コンピューターを使う際の人間工学的に重要なポイントを述べています。

親指シフトは親指をフルに活用します。親指は他の指に比べて強いものの、なるべく負担が無いようにすることが望ましいのです。さらに、親指の使い方を間違えると手指の他の部分に悪影響を及ぼします。

ですから親指シフトキーボードはその用途に合ったものを選ぶことが大事です。それを最も簡単に実現するのは専用の親指シフトキーボードなのです。

新しいポメラが見させてくれた夢

前回の記事の追記で書いたように、新しいポメラを親指シフトの外付けキーボードとして使うことはできないようです。

これを残念だと思ったのは私だけでないようで、ツィッターではバブル崩壊とかお通夜モードといった声も出ています。

まあそこまで言うつもりはないですが、残念な気持ちはたしかにあります。それがどうしてかというのを少し考えてみました。前回の記事にも少し書いたのですが、もう少しそれを拡大して、親指シフトの歴史の中での位置づけ(大げさな)をしてみようと思います。

これは何回も言っているのですが、親指シフトが使えるところはずっと拡大しています。親指シフトが誕生したワープロ専用機の時代はそうではありませんでした。親指シフトを使うことは事実上、富士通のOASYSを使うことでした。これを模式的に示すと以下の通りです。
ワープロ専用機

ここで網がかかっているのが親指シフトを使えるところです。

現在はUSB親指シフト専用キーボードと各種のプログラムを使うとどのOSでも親指シフトを使えるようになりました。ただし、OSごとに日本語入力プログラムは違うため、OSを変えると使い勝手も変わるところがあります。これは次のように表せるでしょう。

現状


網がかかった、親指シフトを使えるところは全部に広がっています。色がついているところはユーザーにとって同じ使い勝手となることを示しています。つまり、親指シフトキーボードというハードウェアは共通に使えますが、共通性はIMEまでは広がっていない(図でいえば色がついていない)ことになります。

それでは新しいポメラがもし、親指シフトでの外付けキーボードとして機能したとするとどうなるでしょう。おそらく、次のようになるでしょう。共通の使い勝手となる部分(色付き)はIMEまでひろがっています。

将来


ヒューマン・インターフェースというものは使う人にとって一貫したものが望ましいと考えられます。一方で、さまざまなプラットフォーム(例えばOS)はそれぞれ得意のものがあるので、いろいろなプラットフォーム上での使い方を知っているとできることが拡大します。

一つのプラットフォームでしかできないことがあれば、そのプラットフォームでの仕事のし方を覚えなければいけません。しかし、プラットフォームによる作法の違いはユーザー・インターフェースの部分にまで影響を及ぼさないようにすることが望ましいのです。

新しいポメラを外付けの親指シフトキーボードとして使うという夢(残念ながら今回は実現していないのですが)の底にはヒューマン・インターフェースというものの本質があるのです。

「ポメラ」で親指シフトが!

株式会社キングジムのデジタルメモ「ポメラ」が親指シフトに対応するというビッグニュースがありました。
http://www.kingjim.co.jp/news/release/detail/_id_16873

ブログやツィッターでも大きな反響がありました。

まだ実際に発売にはなっていないので、詳細は分からないところもあります。親指シフト機としてみると、親指シフトキーの位置や大きさが必ずしも使い易そうでないことなど、私の第一感は少し微妙な感じですが、なにはともあれ富士通以外のメーカーから「親指シフト」という言葉を聞くことだけでも素晴らしいことです。ツイッターでもこれで親指シフトという名前を初めて聞いたという声も結構ありますから、宣伝効果ということでも大きなものがあったのはうれしいことです。

親指シフト以外の機能では、ブルートゥースで接続していろいろな機器の外付けキーボードとして使えるようです。親指シフトが使えるかは不明ですが、ぜひ対応してほしいと思います。

この機器を外付けキーボードとして使うということで、思ったことがあります。それはこの機器は日本語入力プログラムを内蔵しているということです。だから、もしいろいろなハードにつなげたときにこの日本語入力プログラムが使えるならば、ユーザーとのインターフェースはハードだけでなく日本語入力プログラムというソフトウェアのレベルまで統一したものにできることになります。

私はこれまで親指シフトが使える環境は実は広がってきているということを言ってきました。例えば、USB接続の親指シフト専用キーボードはウィンドウズにもマッキントッシュにもリナックスにも同じように使えます。ただ、すべてのOSで使う日本語入力プログラムを揃えることはなかなか難しいところがありました。ジャストシステムのATOKはどのOSにもあるのでそれを使うことはできると思いますが、細かな動作の違いなどはあるかもしれません。

しかし、もしこのポメラのようなものがすべてのOSのコンピューターとつなげるのだったら、親指シフトキーボードというハードウェアだけでなく日本語入力プログラムまでふくめて完全に統一したものにできます。これはヒューマン・インターフェースの考え方としてはとても望ましいものです。

ブルートゥースという統一的なインターフェースを採用することで、人間にも使いやすいものを設計することが可能になったのは興味深いところです。

今回のポメラが実際にこのような動作をするのかは現時点では分かりませんが、少なくともそのような可能性が見えてきたという点で、今回の発表は意義深いものがあります。

(追記)
残念ながら外付けキーボードとして使うときには親指シフトでは使えないようです。いつの日かそうなることを希望します。ヒューマン・インターフェースとしてはそれが自然なのですから。

テーマ : コンピュータ
ジャンル : コンピュータ

親指シフトの限界

私はこれまで親指シフトは使える環境を広げてきていると言ってきました。メーカーに縛られたワープロ専用機から汎用のパソコンへ、OSではウィンドウズからマッキントッシュ、リナックスなどへ、そしてまだ理論段階ですが日本語以外への適用と、親指シフトが有効である場面は増加してきています。

それでは親指シフトの広がりはどこが限界なのでしょう。おそらく親指シフトと一番相性が悪いのは「携帯性」です。これはある意味で当然で、親指シフトが人間の手指を使ってキーボードという物理的なものを操作するということから、使いやすいサイズは人間の物理的特性(特に大きさ)に制限されます。

たまたま最近になっていくつか携帯機器を使い始めたこともあり、それらを比較してみようと思います。特に日本語入力についても少し詳しく見ます。

現在、私が使っているコンピューターをサイズの小さいものからあげていくと、携帯電話(カシオW53CA)、PDA(iPod Touch)、タブレット(Iconia Tab A500)、ノートパソコン(Dell Vostro 1320MacBook Pro)、デスクトップ(ウィンドウズ、リナックス)となります。

これらのうちで親指シフトによる日本語入力を使っているのはデスクトップだけです。キーボードは富士通姓のUSB接続の親指シフト専用キーボードです。ノートパソコンは普通のJISかな配列のキーボードなのでローマ字入力です。タブレット、PDAでは画面に現れるソフトキーボードまたはフリック入力、携帯電話は普通のかなめくり方式です。

持ち歩きを前提としているものでは親指シフト入力はしていないことになります。これでもそれほど不自由は感じません。というか、出歩くような環境で長い文章を書く必要がない(実は、さぼっているだけかもしれませんが)からです。つまり、携帯性と親指シフトが使えるかどうかというのはトレードオフの関係にあるのです。

例えば、出張をするという場合にどんなものを持っていくかということを考えると、日帰り出張ならば携帯電話だけ、あるいはせいぜいPDAくらいまででしょう。1泊ならばタブレットないしノートパソコンをもっていくかもしれません。ちなみに、ネット接続にはWiMaxを使っています。

これがもし1ヶ月の出張だったなら、ノートパソコンは必須です。入力をどうするかですが、もしかしたらコンパクト型の親指シフトキーボードを持っていくかもしれません。本当に文字をたくさん入力しなければいけないとなれば、親指シフトキーボードがついたノートパソコンを買ってしまうかもしれません。

1年の出張だったらおそらく現在のデスクトップパソコンと親指シフト専用キーボードを送って現地で使うことになるでしょう。

結局何が言いたいかというと、いくら親指シフトが使いやすいとは言っても、その他の制約条件(この場合は携帯性)があるときは使えないことがあるということです。だから何がなんでも親指シフトというのも間違っているのです。

なお、携帯電話やandroid機器では外付けキーボードで親指シフトを実現する方法があります。これがどの程度実用的なのかは使う人の環境にもよりますが、面白い試みです。この場合でも、キーボードという物理的存在が必要だということは留意すべきでしょう。
プロフィール

SugitaNobuki

Author:SugitaNobuki
杉田伸樹(ぎっちょん)
親指シフトの普及活動を続けています。
約38年の公務員生活を終え、現在は大学教員です。

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