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親指シフトが速いことは大切なことか

親指シフトを推す人はさまざまな理由をあげる。その中で「入力が速い」はおそらくトップ3に入るだろう。確かに文章を入力する時間が短くなることは魅力的なことだ。しかし、このことをきちんと分析せずに、単なるハイプのように言うのだったら親指シフトを推すことは嘘つきということになろう。だから、この問題をできる限り正確に分析しておくことは大事なことである。
ここでも、「入力が速い」の意味をいくつかのレベルに分けることが有益であると考える。それらを以下、仮に技術的なレベル、個人的なレベル、社会的なレベルと名付けて見ることにする。

1.技術的なレベル
親指シフトはローマ字入力やJISかな入力に比べて同じひらがな文字列を入力するために必要な打鍵数は少なくて済む。これは文字数がそんなに多くなくても、たとえば100文字くらいでも明らかになる。親指シフトを1とすると、JISかなは1.2、ローマ字は1.8くらいになるようだ。これは大きな差のようだが、文字入力をするにはその他にかな漢字変換も必要になる。これらはどの入力方法でも差はないだろうから、差は縮まる。さらに、決まった文章を入力練習のようにするのではなく、文章を考えながら入力をするという場合だったら入力速度の差の持つ意味はさらに小さくなるだろう。
http://gicchon.la.coocan.jp/sub18.htm

2.個人的なレベル
それでは、親指シフトを使って入力が速いことは、ユーザー個人にとってはどのような意味があるだろう。今まで1日1万字しか書けなかったのが1万2千字書けるようになるのは良いかもしれない。私は文章を文字数で評価するという19世紀的な思考方法にはついていけないけれども。それに、文章の内容まで考えると、どうでも良いような文章がたくさん生み出されたら世の中からすれば迷惑なことじゃないだろうか。いずれにしても、個人にとっての親指シフトのベネフィットなんてそんなに大したものではない。親指シフトに乗り換えようという人がほんの一握りしかいないのは当然である。
https://www.facebook.com/groups/oyayubishift/permalink/2149434998417741

3.社会的なレベル
親指シフトをキーボード配列の規格という社会的システムで見たらどうだろうか。こうした規格は一般に一度確立したものを取り替えるのはコストがかかり難しい。親指シフトがローマ字入力に勝てないのはこのためである。つまり個人的なレベルでの議論をしていても、誰も振り向かないのである。しかし、社会全体が親指シフトに切り替わればそのベネフィットは大きなものになる。このことをきちんと訴えていくことが大事だと考える。
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親指シフトは難しいか

親指シフトは難しいか、という問いはよく目にすることがある。もちろん、肯定的な議論も否定的な議論もある。
ただ、こうした議論を見ると違和感を感じることがある。それは、どのようなレベルでこれを論ずるかということが明確になっていないまま、個人が自分の思い描く範囲での考えを述べるという状態になっているからだと思う。
もちろん、問いのとらえ方は個々人により違うのは当然だが、それでもそうした前提条件を論ずることなく議論をしてしまうことで本質的なことが見えなくなってしまっているのではないかと考える。
私の本件に対する考え方は、この問いを3つのレベルに分けるのが有益なのではないか、というものである。
3つのレベルとは、個人の技術としてのレベル、環境構築のレベル、社会的受け入れのレベルである。以下、簡単にそれぞれについて説明する。
1. 個人の技術としてのレベル
親指シフトはもちろん、個人がキーボードとコンピューターを使って文章を作成するための技術の一つである。人間が体を使ってする技術という意味では、たとえば自転車に乗るとかと同じである。こうした技術は、ものによる違いはあるものの、総じてすぐに身につくものではなく、何らかの練習が必要なのは明らかである。
親指シフトで言えば、文字に対応するキーの位置に指を動かして押す動作が無意識にできるようになることが必要となる。
他の技術と同様、親指シフトでも人により得意不得意はあるから、簡単に覚えられたという人もいるし、なかなか難しいという人もいる。
私の見るところ、昔(OASYSの専用機があったころ)に覚えた人は、簡単に(たとえば1週間程度で)できるようになった、というのが多いように思える。もちろん、今の時代まで親指シフトを使っている人たちは最初の良い思い出として美化しがち、ということはあるかもしれない。ところが、最近親指シフトを覚えようとする人のブログなどの書き込みをみると、難しくてなかなかできない、やっぱりあきらめたというのを見ることが多いような気がする。
個人の印象だけではなかなかきちんとした議論をすることができないのは困ったことだが、幸い、かつて行われた実験がある。これはいまはなき日本語入力コンソーシアムの資料としてあった(今はウェブサイトがなくなってしまったのですぐに見ることができないのは残念)、親指シフト、JISかな、ローマ字入力を初心者に練習させて、上達の度合いを測定したものである。この結果は、親指シフトがもっとも上達が速い、というものだった。つまり、親指シフトは設計の面で他の2つの方法よりも簡単だ、という結論になっている。
それでは、なぜ、親指シフトは難しい、という声をそんなに耳にするのだろうか。確かな理由は分からないが、たとえば、使っているキーボードの違い(昔は専用キーボードを使っていた人がほとんどだったと思うが、今はそうではないだろう)や、練習環境(かつてのOASYSにはよくできた練習ソフトがあった)なのかもしれない。それに加えて、親指シフトなんて簡単に覚えられるよ、といった言葉につられてやってみたが、そんなには簡単ではなかった、などと感じる人が多いのかもしれない。
私が思うのは、覚えやすい練習環境を作れば、親指シフトを覚えることはそんなに大変ではない(練習が必要でない訳ではない)と思うが、そのような練習環境の構築は難しくなってきていると思う。
2. 環境構築のレベル
今述べた練習環境もそうだが、そもそも親指シフトを使えるようにする環境を作ることにどのくらいの困難があるかということを考えてみたい。
よく、親指シフトを勧めている人で、このノートパソコンで、このフリーソフトを使って、このような設定をすると、親指シフトなんて簡単に使えるようになるよ、といったことを言う人がいる。確かにそうかもしれない。しかし、そのような設定はたとえばパソコンが変わっても通用するかというと必ずしもそうとは言えない場合もあるだろう(実際、ノートパソコンのキーボードは機種によりかなり違いがある)。そうした細かいところまで、簡単にできると言っている人がきちんと把握し、親指シフトを使いたいという人が困っているのに対応してくれるのだろうか。
私が現在、基本的に使っているセットアップは、専用キーボードとJapanist10というプログラムである。これらはすでに販売が終了し新たに購入することはできなくなっている(その意味ではこれらを使うのはとても難しいのだが)が、これらはWindowsの普通の作法にしたがって作られているから、インストールや設定も無理なくできる。サポートはまだ続いているから、問題があったときは富士通に言うこともできる(どの程度対応してくれるかは分からないが)。
3. 社会的受け入れのレベル
最後は社会的受け入れのレベルである。承知の通り、親指シフトを使っているひとは圧倒的少数である。世の中には、少数しか使われていないものを自分が使っているということがさもすごいことだと言いたい人がいる。自分は他の人が使っていないこんなものを使ってすごいんだ、とでも言いたげだ。これはおかしなことで、少なくとも私は親指シフトを使うことがそんなにすごいこととは思えない。
技術は広く社会で使われるようにならなければその有用性は示せない。親指シフトは残念ながらその面では失敗したと言わざるを得ない。もちろん、そんなことは関係なく、自分にとって使いやすく合っているものを使うのだ、というのは間違っていない。私も環境が許す限り親指シフトを使い続けるだろう。ただ、少数派であることは多くの不便や困難を覚悟しないといけないことを知っておく必要はある。そうした困難を伝えずに、能天気に他人に勧めるようなことは私にはできない。

親指シフトに関連した雑感

親指シフトは40年以上前に富士通のワープロ専用機OASYSに搭載されて誕生した。当初は「親指シフト」といえば、まさに1つしかなかったといえるだろう。その後、OASYSのラインアップも増え、さらにパソコンなどでも使えるようになり、サードパーティーの専用キーボード等も出てくる中で、親指シフトが使えるような場面は増えていった。これはもちろん喜ばしいことだった。
使える場面が広がる中で「親指シフトとは何か」ということを定義することはあまり意味のあることではないだろう。私の考えつくいくつかのトピックで親指シフトに関連する話題を取り上げてみたい。もちろんこれは私の考えで、親指シフトに関してはさまざまな考え方があると思うので、自由に考えて良いと思う。
1.NICOLA以外の配列
親指シフトで多くの人がイメージする文字配列は、日本語入力コンソーシアムが決めたNICOLA配列だと思う。これは、富士通が当初決めた配列に少しの変更(半濁音の入力方法や親指シフトキーの場所の柔軟化など)をしたものだが、文字の配置は基本的に変わっていない。
これに対して、もっと効率的な配列があるのではないか、ということで代替案を提示する人もいる。実は私はこうした案(100回以上テストを繰り返してその度に配列も変更していることで有名なもの)の考案者と私の掲示板で、突っ込んだ議論をしたこともある。確かに現在のNICOLA配列に改善の余地がないかというと、そんなことはないだろう。よく言われるのはNICOLAでは清音と濁音は同じキーに置くという制限があることだ。この制限があることで、より効率的な文字配列の可能性を狭めている、というのはあり得る議論だ。
この方との議論は大方すれ違いになった、というのが私の感覚なのだが、その理由は両者の求めているものの違いにあったと思う。先方が目指しているのは、与えられた条件で(ご自分が実際に使っているキーボードでの自分が入力する実験結果をもとにしていた)効率化を目指すという、言ってみれば、自分の車を改造して速く走らせるようなことだった。それに対して私の関心事は、効率的で安全な車や交通の規格を作る、ということにたとえられる。今でも記憶しているのだが、最初に富士通が配列を決めたときにさまざまな検討をしたが最終的にはえいやで決めたと神田さんが言っていることを批判していた。私の議論は、これは規格なのだから効率について拘るのはいいにしても(実際、親指シフトはローマ字入力やJISかな入力に比べたらずっと効率的であるのは確かである)、大事なことは「みんなに使ってもらう」ことで、そのためには一つのものに決めることが必要ではないか、というものだった。このすれ違いはずっと続いた。
もう一つ、私が違和感を持ったのが、配列を決めるのに自身で持っているパソコン(JISキーボード)での入力実験をもとにしていることで、それは他のパソコンだったらどうなるか、という議論に対しては、説得力のある答がないのではないかと思った。それよりは、配列の効率は少し劣るかもしれないが、それに適した専用キーボードを使う方が良いことではないかと思った。
2.親指以外での同時打鍵
親指シフトは「親指と他の指の同時打鍵(同手または異手)」を使う方法である。これに対して、親指ではなく他の指、たとえば中指や薬指と、他の指との同時打鍵を使う、という考え方がある。まあ、これは「親指」シフトではないだろうが、「複数の指の同時打鍵」という面から見れば、親指シフトと同根ともいうことはできるだろう。
どんな呼び方をするか、という話はどうでも良いと思うが、私は個人的にはこの方向の議論にはあまり興味をそそられない。その理由は2つあって、一つは親指シフトが開発されたときの研究の早い段階で、親指以外の複数の指の同時打鍵を使った入力方法は難しい、という結論が出ている(神田さんのウェブサイトやWikipediaに書かれている)ことである。だから、改めてそうした考えを復活させるとしたら、これを覆すような議論がないといけないのではないかと思う。もう一つの理由は、親指ではなく中指や薬指を使う理由として、親指シフト専用キーボードではなく普通に利用可能なキーボードで使えることをあげていることである。1.と同じ理由で、私はなんで現在あるキーボードという制約にそんなに縛られなければならないか、というのが理解できない。
もちろん、以上は私の個人的な考えで、もしかしたらこの方法にはもっと良い理屈があるのかもしれないし、使ってみて良かったらそれでオーケーだとは思う。
3.自作キーボード
最近の技術進歩、特に3Dプリンターなどが個人でも使えるようになってきたことから、キーボードを自作する、というのがブームになってきている。もちろん、親指シフトのコミュニティーも、専用キーボードが工業製品として終息するということもあり、興味を持っている人が結構いる気がする。私もすぐに何か作ろうというほどではないにしても、興味はあるし、なんといっても、自分用にカスタマイズされたインターフェースという考え方は親指シフトとも親和性があるものだと思う。キーキャップなどの部品だけにとどまらず、キーボード全体を自分用に作れればすばらしいとおもう。それどころか、携帯できる親指シフトパソコンだって
https://www.facebook.com/groups/oyayubishift/permalink/2157758007585440
のようないい加減なものではなく、ちゃんとしたものができるのではないかと夢は広がる。
しかし、どこでも自分に合ったキーボードを使いたい、という理想は技術的な問題だけでは解決できない。それは次のような状況を考えてみれば分かる。もし、あなたが会社などの組織のトップや情報部門の担当者だとしたら、社員が自分の使いたいキーボードや入力のためのプログラムを持ってきて使いたいと言ったとき、それを許可するだろうか。それも各自が自分で作ったものだったらどうだろうか。親指シフトのユーザーがこれまで苦労しているのはそういうことなのだ。自作キーボードの理想はすばらしいと思うが、その理想を実現するために技術的な課題だけでなく社会的な課題まで解決するように頑張ってほしいと願っている。
4.日本語以外
親指シフトは日本語の入力を改善するために使われている。NICOLAも「日本語入力コンソーシアム」という団体が策定した。日本語を入力するには最適、というキャッチフレーズを使いたくなるのも当然なことだろう。
しかし、キーボードでの入力をより合理的、簡単なものにしようというのは、日本語に限った話ではないのではないか。特に文字数が多かったり、いろいろな補助記号を使ったりする言語では、キーボード入力の方法にさまざまな工夫がいる。英語のように、文字とキーがほぼ一対一で対応するという言語はきわめてまれだ。
親指シフトは、親指と他の指の同時打鍵という、人間の体の構造から見て自然な方法で、一つのキーで打ち分けられるケースの数を増やした。これによりキーボード入力の可能性が大きく広がった。
それだとすれば、日本語に限らず、他の言語でも応用がきくのではないか、という考え方がある。
拙サイト http://gicchon.la.coocan.jp/sub14.htm にまとめてあるのはその例である。
ある程度の具体的な案を考えているのは、私の知る限りでは日本で3人(ということはおそらく世界で3人)だけだし、当然、実装などはできていない。私がその3人に含まれているから言うわけではないが、「3人が独立に同じことを考えていたら、それはおそらく正しい」という信念(笑)を持っている私としては、ぜひ、この方面で続く人が出ることを願っている。

以上、親指シフトに関連する話題としていくつか取り上げてみた。もちろん、この程度で親指シフトに関連したものが尽きるわけではないし、もっと面白いことを考えている人がいると思う。裾野の広さが、親指シフトの基本的な考え方の健全さを示していると私は思っている。
プロフィール

SugitaNobuki

Author:SugitaNobuki
杉田伸樹(ぎっちょん)
親指シフトの普及活動を続けています。
約38年の公務員生活を終え、現在は大学教員です。

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