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親指シフトに関連した雑感

親指シフトは40年以上前に富士通のワープロ専用機OASYSに搭載されて誕生した。当初は「親指シフト」といえば、まさに1つしかなかったといえるだろう。その後、OASYSのラインアップも増え、さらにパソコンなどでも使えるようになり、サードパーティーの専用キーボード等も出てくる中で、親指シフトが使えるような場面は増えていった。これはもちろん喜ばしいことだった。
使える場面が広がる中で「親指シフトとは何か」ということを定義することはあまり意味のあることではないだろう。私の考えつくいくつかのトピックで親指シフトに関連する話題を取り上げてみたい。もちろんこれは私の考えで、親指シフトに関してはさまざまな考え方があると思うので、自由に考えて良いと思う。
1.NICOLA以外の配列
親指シフトで多くの人がイメージする文字配列は、日本語入力コンソーシアムが決めたNICOLA配列だと思う。これは、富士通が当初決めた配列に少しの変更(半濁音の入力方法や親指シフトキーの場所の柔軟化など)をしたものだが、文字の配置は基本的に変わっていない。
これに対して、もっと効率的な配列があるのではないか、ということで代替案を提示する人もいる。実は私はこうした案(100回以上テストを繰り返してその度に配列も変更していることで有名なもの)の考案者と私の掲示板で、突っ込んだ議論をしたこともある。確かに現在のNICOLA配列に改善の余地がないかというと、そんなことはないだろう。よく言われるのはNICOLAでは清音と濁音は同じキーに置くという制限があることだ。この制限があることで、より効率的な文字配列の可能性を狭めている、というのはあり得る議論だ。
この方との議論は大方すれ違いになった、というのが私の感覚なのだが、その理由は両者の求めているものの違いにあったと思う。先方が目指しているのは、与えられた条件で(ご自分が実際に使っているキーボードでの自分が入力する実験結果をもとにしていた)効率化を目指すという、言ってみれば、自分の車を改造して速く走らせるようなことだった。それに対して私の関心事は、効率的で安全な車や交通の規格を作る、ということにたとえられる。今でも記憶しているのだが、最初に富士通が配列を決めたときにさまざまな検討をしたが最終的にはえいやで決めたと神田さんが言っていることを批判していた。私の議論は、これは規格なのだから効率について拘るのはいいにしても(実際、親指シフトはローマ字入力やJISかな入力に比べたらずっと効率的であるのは確かである)、大事なことは「みんなに使ってもらう」ことで、そのためには一つのものに決めることが必要ではないか、というものだった。このすれ違いはずっと続いた。
もう一つ、私が違和感を持ったのが、配列を決めるのに自身で持っているパソコン(JISキーボード)での入力実験をもとにしていることで、それは他のパソコンだったらどうなるか、という議論に対しては、説得力のある答がないのではないかと思った。それよりは、配列の効率は少し劣るかもしれないが、それに適した専用キーボードを使う方が良いことではないかと思った。
2.親指以外での同時打鍵
親指シフトは「親指と他の指の同時打鍵(同手または異手)」を使う方法である。これに対して、親指ではなく他の指、たとえば中指や薬指と、他の指との同時打鍵を使う、という考え方がある。まあ、これは「親指」シフトではないだろうが、「複数の指の同時打鍵」という面から見れば、親指シフトと同根ともいうことはできるだろう。
どんな呼び方をするか、という話はどうでも良いと思うが、私は個人的にはこの方向の議論にはあまり興味をそそられない。その理由は2つあって、一つは親指シフトが開発されたときの研究の早い段階で、親指以外の複数の指の同時打鍵を使った入力方法は難しい、という結論が出ている(神田さんのウェブサイトやWikipediaに書かれている)ことである。だから、改めてそうした考えを復活させるとしたら、これを覆すような議論がないといけないのではないかと思う。もう一つの理由は、親指ではなく中指や薬指を使う理由として、親指シフト専用キーボードではなく普通に利用可能なキーボードで使えることをあげていることである。1.と同じ理由で、私はなんで現在あるキーボードという制約にそんなに縛られなければならないか、というのが理解できない。
もちろん、以上は私の個人的な考えで、もしかしたらこの方法にはもっと良い理屈があるのかもしれないし、使ってみて良かったらそれでオーケーだとは思う。
3.自作キーボード
最近の技術進歩、特に3Dプリンターなどが個人でも使えるようになってきたことから、キーボードを自作する、というのがブームになってきている。もちろん、親指シフトのコミュニティーも、専用キーボードが工業製品として終息するということもあり、興味を持っている人が結構いる気がする。私もすぐに何か作ろうというほどではないにしても、興味はあるし、なんといっても、自分用にカスタマイズされたインターフェースという考え方は親指シフトとも親和性があるものだと思う。キーキャップなどの部品だけにとどまらず、キーボード全体を自分用に作れればすばらしいとおもう。それどころか、携帯できる親指シフトパソコンだって
https://www.facebook.com/groups/oyayubishift/permalink/2157758007585440
のようないい加減なものではなく、ちゃんとしたものができるのではないかと夢は広がる。
しかし、どこでも自分に合ったキーボードを使いたい、という理想は技術的な問題だけでは解決できない。それは次のような状況を考えてみれば分かる。もし、あなたが会社などの組織のトップや情報部門の担当者だとしたら、社員が自分の使いたいキーボードや入力のためのプログラムを持ってきて使いたいと言ったとき、それを許可するだろうか。それも各自が自分で作ったものだったらどうだろうか。親指シフトのユーザーがこれまで苦労しているのはそういうことなのだ。自作キーボードの理想はすばらしいと思うが、その理想を実現するために技術的な課題だけでなく社会的な課題まで解決するように頑張ってほしいと願っている。
4.日本語以外
親指シフトは日本語の入力を改善するために使われている。NICOLAも「日本語入力コンソーシアム」という団体が策定した。日本語を入力するには最適、というキャッチフレーズを使いたくなるのも当然なことだろう。
しかし、キーボードでの入力をより合理的、簡単なものにしようというのは、日本語に限った話ではないのではないか。特に文字数が多かったり、いろいろな補助記号を使ったりする言語では、キーボード入力の方法にさまざまな工夫がいる。英語のように、文字とキーがほぼ一対一で対応するという言語はきわめてまれだ。
親指シフトは、親指と他の指の同時打鍵という、人間の体の構造から見て自然な方法で、一つのキーで打ち分けられるケースの数を増やした。これによりキーボード入力の可能性が大きく広がった。
それだとすれば、日本語に限らず、他の言語でも応用がきくのではないか、という考え方がある。
拙サイト http://gicchon.la.coocan.jp/sub14.htm にまとめてあるのはその例である。
ある程度の具体的な案を考えているのは、私の知る限りでは日本で3人(ということはおそらく世界で3人)だけだし、当然、実装などはできていない。私がその3人に含まれているから言うわけではないが、「3人が独立に同じことを考えていたら、それはおそらく正しい」という信念(笑)を持っている私としては、ぜひ、この方面で続く人が出ることを願っている。

以上、親指シフトに関連する話題としていくつか取り上げてみた。もちろん、この程度で親指シフトに関連したものが尽きるわけではないし、もっと面白いことを考えている人がいると思う。裾野の広さが、親指シフトの基本的な考え方の健全さを示していると私は思っている。
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プロフィール

SugitaNobuki

Author:SugitaNobuki
杉田伸樹(ぎっちょん)
親指シフトの普及活動を続けています。
約38年の公務員生活を終え、現在は大学教員です。

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