fc2ブログ

親指シフトは難しいか

親指シフトは難しいか、という問いはよく目にすることがある。もちろん、肯定的な議論も否定的な議論もある。
ただ、こうした議論を見ると違和感を感じることがある。それは、どのようなレベルでこれを論ずるかということが明確になっていないまま、個人が自分の思い描く範囲での考えを述べるという状態になっているからだと思う。
もちろん、問いのとらえ方は個々人により違うのは当然だが、それでもそうした前提条件を論ずることなく議論をしてしまうことで本質的なことが見えなくなってしまっているのではないかと考える。
私の本件に対する考え方は、この問いを3つのレベルに分けるのが有益なのではないか、というものである。
3つのレベルとは、個人の技術としてのレベル、環境構築のレベル、社会的受け入れのレベルである。以下、簡単にそれぞれについて説明する。
1. 個人の技術としてのレベル
親指シフトはもちろん、個人がキーボードとコンピューターを使って文章を作成するための技術の一つである。人間が体を使ってする技術という意味では、たとえば自転車に乗るとかと同じである。こうした技術は、ものによる違いはあるものの、総じてすぐに身につくものではなく、何らかの練習が必要なのは明らかである。
親指シフトで言えば、文字に対応するキーの位置に指を動かして押す動作が無意識にできるようになることが必要となる。
他の技術と同様、親指シフトでも人により得意不得意はあるから、簡単に覚えられたという人もいるし、なかなか難しいという人もいる。
私の見るところ、昔(OASYSの専用機があったころ)に覚えた人は、簡単に(たとえば1週間程度で)できるようになった、というのが多いように思える。もちろん、今の時代まで親指シフトを使っている人たちは最初の良い思い出として美化しがち、ということはあるかもしれない。ところが、最近親指シフトを覚えようとする人のブログなどの書き込みをみると、難しくてなかなかできない、やっぱりあきらめたというのを見ることが多いような気がする。
個人の印象だけではなかなかきちんとした議論をすることができないのは困ったことだが、幸い、かつて行われた実験がある。これはいまはなき日本語入力コンソーシアムの資料としてあった(今はウェブサイトがなくなってしまったのですぐに見ることができないのは残念)、親指シフト、JISかな、ローマ字入力を初心者に練習させて、上達の度合いを測定したものである。この結果は、親指シフトがもっとも上達が速い、というものだった。つまり、親指シフトは設計の面で他の2つの方法よりも簡単だ、という結論になっている。
それでは、なぜ、親指シフトは難しい、という声をそんなに耳にするのだろうか。確かな理由は分からないが、たとえば、使っているキーボードの違い(昔は専用キーボードを使っていた人がほとんどだったと思うが、今はそうではないだろう)や、練習環境(かつてのOASYSにはよくできた練習ソフトがあった)なのかもしれない。それに加えて、親指シフトなんて簡単に覚えられるよ、といった言葉につられてやってみたが、そんなには簡単ではなかった、などと感じる人が多いのかもしれない。
私が思うのは、覚えやすい練習環境を作れば、親指シフトを覚えることはそんなに大変ではない(練習が必要でない訳ではない)と思うが、そのような練習環境の構築は難しくなってきていると思う。
2. 環境構築のレベル
今述べた練習環境もそうだが、そもそも親指シフトを使えるようにする環境を作ることにどのくらいの困難があるかということを考えてみたい。
よく、親指シフトを勧めている人で、このノートパソコンで、このフリーソフトを使って、このような設定をすると、親指シフトなんて簡単に使えるようになるよ、といったことを言う人がいる。確かにそうかもしれない。しかし、そのような設定はたとえばパソコンが変わっても通用するかというと必ずしもそうとは言えない場合もあるだろう(実際、ノートパソコンのキーボードは機種によりかなり違いがある)。そうした細かいところまで、簡単にできると言っている人がきちんと把握し、親指シフトを使いたいという人が困っているのに対応してくれるのだろうか。
私が現在、基本的に使っているセットアップは、専用キーボードとJapanist10というプログラムである。これらはすでに販売が終了し新たに購入することはできなくなっている(その意味ではこれらを使うのはとても難しいのだが)が、これらはWindowsの普通の作法にしたがって作られているから、インストールや設定も無理なくできる。サポートはまだ続いているから、問題があったときは富士通に言うこともできる(どの程度対応してくれるかは分からないが)。
3. 社会的受け入れのレベル
最後は社会的受け入れのレベルである。承知の通り、親指シフトを使っているひとは圧倒的少数である。世の中には、少数しか使われていないものを自分が使っているということがさもすごいことだと言いたい人がいる。自分は他の人が使っていないこんなものを使ってすごいんだ、とでも言いたげだ。これはおかしなことで、少なくとも私は親指シフトを使うことがそんなにすごいこととは思えない。
技術は広く社会で使われるようにならなければその有用性は示せない。親指シフトは残念ながらその面では失敗したと言わざるを得ない。もちろん、そんなことは関係なく、自分にとって使いやすく合っているものを使うのだ、というのは間違っていない。私も環境が許す限り親指シフトを使い続けるだろう。ただ、少数派であることは多くの不便や困難を覚悟しないといけないことを知っておく必要はある。そうした困難を伝えずに、能天気に他人に勧めるようなことは私にはできない。
スポンサーサイト



プロフィール

SugitaNobuki

Author:SugitaNobuki
杉田伸樹(ぎっちょん)
親指シフトの普及活動を続けています。
約38年の公務員生活を終え、現在は大学教員です。

FC2カウンター
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード